ポール・セロー『中国鉄道大旅行』文藝春秋社、1994年6月

 

中国鉄道大旅行

中国鉄道大旅行

 

 ■読後感

この作者の旅行記というとやはり『鉄道大バザール』ということになる。本作は、『鉄道大バザール』では30歳代前半だった著者が40歳代後半となり、鉄道大国である中国を「鉄のオンドリ」(Iron rooster)をはじめとする列車に乗り、約1年をかけて中国をあまねく旅するものである。

この作品も、前作と同様に、乗り合わせた乗客たちや街の人々とのやり取りが中心となっており、いわゆる名所めぐりの旅行記とは異なり、著者の観点による人の観察を通じてその国を理解しようとするこころみで大変惹きつけられる。とくに、最終章のチベット訪問記は鉄道のない時代にチベットをおんぼろ車で訪れた本作の白眉になる部分で、楽しむことができること請け合いである。

実のところ、この旅行記でセロー氏は不満ばかりを多く抱えることとなる。本当は一人になって落ち着いてこの国を観察したいところだが、行くところ人、人、人・・・、列車の環境もすし詰めの乗客、服務員の厳格なルール遂行など、満足すべきものとは言えない。

しかし、合理性・環境保護・動物愛護の観点を有するセロー氏は行く先々で文化大革命、動物軽視といった中国社会の矛盾を観察し、書き留め、そしてときには論争をしかけている。

本作は、『鉄道大バザール』がよみがったかのようなうれしい著作だが、残念ながらどこに行っても中国社会は共通するところが多く、アジアを横断した前作に比べるとバラエティには劣るようだ。