ポール・セルー『鉄道大バザール』講談社、1977年12月
■読後感
おそらくこの作品を初めて読んだのはそれこそ刊行直後の1977年か翌年くらいだったのではないかと思う。鉄道でヨーロッパからアジアを歴訪するこの旅行記に惹きつけられ、むさぼるように読んだ記憶がある。
当時は、世界の鉄道についてまったく知識をもっておらず、1章ごとに世界の新しいページを開いていくような気がしたものだ。しかし、この作品はたんなる探訪記ではない。鉄道の旅そのものも非常に魅力的だが、それに加え現地の人々とのやり取りが非常に面白い。著者が、イギリス在住のアメリカ人として、合理性・自然重視など確固たる視点を有しており、まだまだ伝統社会に生きる人々とのやり取りは、その国民性がよくわかり、ある意味おかしみさえ感じさせるものである。
そうした意味で、何度読んでも汲み尽くしがたいのがこの旅行記のすばらしさである。これを超える鉄道紀行はなかなか現れないのではないか。