植草甚一『ぼくの東京案内』晶文社、2011年2月

 

ぼくの東京案内 (植草甚一スクラップ・ブック)

ぼくの東京案内 (植草甚一スクラップ・ブック)

 

 ■読後感

筆者は、東京日本橋明治41年に生まれ、50歳を過ぎるくらいまで東京を出たことがなかったらしい。

植草さんといえば、なんといっても古書(古本といったほうがいいのかな)の収集家として有名で、印象に残るのは、うずたかく積まれた本の山の中でタバコを吸いながら雑誌を読んでいる一枚の写真です。この本でも、古書や古雑誌を買いあさっている自らの姿が随所に出てきますが、そうした収集家に独特のいわゆる該博な知識の披瀝のようなものは不思議に感じられなくて、新宿や渋谷などの街歩き、買い物、観察と人との交流が中心にたんたんとつづられています。あれだけの本を収集した人ですから、まあ変わり者、といってしまえばそれまでなのですが、そんな背景を感じさせないところが特徴的でした。

植草さんのこの本での叙述ははっきりいってとりとめがなく、生活のために、無理やり書いているところも多くみられるのですが、大正から昭和に至る時代をどう生きてきたかということが叙述の窓を通して伝わってきます。また、文体にも全く重々しさのようなものがなく、明治生まれの人が書いたとは思われないところがまた不思議なところでした。