中村安希『インパラの朝』集英社文庫、2013年1月

 

インパラの朝 ユーラシア・アフリカ大陸684日

インパラの朝 ユーラシア・アフリカ大陸684日

 

 ■読後感

ほぼ2年間にわたり、若い日本人女性がアジアからアフリカをバックパッカーとして体験した記録である。

バックパッカーという旅行スタイルは、安価で、できるだけ現地とより深くかかわることを目的としたものだと思うが、家畜を運搬するトラックの荷台や長大編成の石炭貨車で移動したり、南京虫に刺されるなど苛烈な体験をしたことにまず驚かされた。また、現地の子どもや大人たちとも深くかかわり、植民地・低開発地域としての歴史が深く人々に影を落としていることも的確に観察しており、その力にも驚かされた。

「日本からきている」=「裕福である、したがって我々に対し援助すべきである」という考え方のアフリカの男たちに対しては、関係は飽くまでも対等であるべきとして、諄々と説得をする筆者の力に感心するとともに、男性たちに深く根付いた劣等感に対する筆者の失望の大きさも感じることができた。

一方では、子どもや女性たちの純粋さと触れ合う場面が多く登場し、緊張を強いられる場面の多いこの作品においても、ほっと息をつくことができる。また、現地の人々に救われる場面もあった。

こうした旅行記は大好きだが、タイプとしては『深夜特急』型で、若者しかできないチャレンジングでかつ(チャレンジングであるからこそ)思索を深めていくタイプの旅行である。通常乗り越えがたいだろうと思われる場面を意志の強さ、粘り強さや機智により克服していく。また、体験の深さに比例して思索も深まり、中村安希さんという人間そのものが現地の人々に飛び込んでいく過程が読んでいて爽快だった。また、旅行全体を記述するのではなく、エピソードの一つひとつを窓から見るようにつなげていくというこの本の構成も効果的だった。体験もさることながら、筆者自身の筆力も見事だったと思う。

これまでどちらかというと「おじさんの旅行記」を中心に読んできたが、こうした若くて意思の強い女性の旅行記は初めてであり、体験のさまざまなエピソードを楽しみつつも緊張感をもって読了した。