森茉莉『貧乏サヴァラン』ちくま文庫、

 

貧乏サヴァラン (ちくま文庫)

貧乏サヴァラン (ちくま文庫)

 

 ■読後感

森茉莉さんは明治から昭和を生きた人だ。父親の鴎外からはずいぶんかわいがられたらしい。若くして嫁ぎ、フランスへ夫とともに行き、そして晩年を文筆家、テレビ評論家として一人で過ごした。

父親のもとで過ごした日々は、茉莉さんにとってかけがえのないものだったようだ。また、その後の洋行での経験など、茉莉さんの視点で美しく切り取っている。

しかし、本人も自嘲的に語っているが、何かふわふわしたところがあり、また他人のみならず自分に対しても冷笑的に見ているところがあって、それが茉莉さんの文体を形作っているようだ。これは、『記憶の絵』の印象とは少し違って、言ってみれば一風変わった独り言のようにも思われるところだった。