枝広淳子+内藤耕『入門!システム思考』講談社現代新書、2007年6月

入門! システム思考 (講談社現代新書)

入門! システム思考 (講談社現代新書)

■読むきっかけ

  • 因果の連鎖関係を図式化することは物事の理解に有効であり、その手法を習得したい

■内容【個人的評価:★★★−−】

  • 「システム思考」とは、社会や人間の抱える物事や状況を、目の前にある個別の要素ではなく、それぞれの要素とそのつながりを持つシステムとして、その構造を理解することである。
  • この考え方は1950年代にMITで確立され、デュポン社やゼネラル・エレクトリック社で問題解決のための手法として利用され、効果をあげている。
  • これによりビジネス・システムの全体像をとらえることができる。
  • 著者は環境問題への対応にあたり、たとえば「川の浄化」や「ゼロエミッション工場」は実現できても、全体としての環境システムの改善にはつながっていないと考えていた。

○第一章「いろいろな方向から見れば」

  • ちょっとしたことでも何かやろうとすれば、問題に対する視点の数は非常に多い。
  • 目の前にある問題を個別の要素に分類・分析していき、その要素を変えることで問題の解決を考える従来ながらの方法を「分析的思考」という。これに対し、多様な視点から全体を理解し、要素の関係や組み合わせから問題解決を考える方法を「システム思考」という。

○第二章「二つの「考える」方法」

  • 人間はいつも考えている。しかし「考える方法」についてはあまり考えない。考える方法は、今すでにあるものを考えるときと、まだないものを考えるときで異なる。
  • 目の前に存在しない、「おいしいカレーライス」を作ろうとすると、その方法論はいくつもある。
  • たとえば新しいプロジェクトの提案ということを考えてみると、提案者はいかによいプロジェクトかをいろいろな視点から説明する。聞く側は、おそらく何か問題点を探そうとして一つの視点だけで聞く。議論が進まなくなる。これは、全体のシステムを意識するか個別の要素に関心が向かうかの違いである。
  • マラリアの撲滅、交通渋滞の緩和、フロンの使用、杉の植林などはそれぞれ問題解決のために採られた政策だったが、これがまったく別の問題を引き起こすということにまったく思い至っていなかった。システム思考を持って問題に対処せず、目の前の問題だけに対症療法で対応してしまったのである。

○第三章「システム思考を理解する」

  • できごとは単独で考えるのでなく、少し長めの時間軸をとって考えるようにすること。
  • システムとは因果のつながりである。これ(フィードバック・ループ)を図にしてみよう。
  • つづいて、どんな構造であれば理想的なのかを考える。
  • プチゴールを設け、段階的に改善を進めていくのが効果的。
  • システム思考における「役に立つ知恵」「鉄則」には、次のようなものがある。
    • 1.今日の問題は、昨日の解決策から起きている→村おこしのために道路を作ったら、若者が道路を使って出ていってしまった。
    • 2.解決のツボは問題から一見遠くにあることもある。→ニューヨーク、地下鉄での犯罪が絶えなかったが、落書きを消したところ犯罪が減った。
    • 3.問題パターンは構造が引き起こしている。→人を変えてもだめ
    • 4.人を責めない。自分を責めない。→問題があるとしたら、人ではなく構造に問題がある。
    • 5.世の中には副作用はない。あるのは作用だけ。
    • 6.システム思考はコミュニケーションツールでもある。

○第四章「システム原型の紹介」

  • システム原型をビジネス文脈に応用したのが「学習する組織」の第一人者であるピーター・センゲである。
  • 自分の利益になると思って採った行動が後になって自分の不利益を招いている。
  • ループを描き、長期的にどうなるかを考えるべきである。

○第五章「システム思考を使って行動する」

  • 身近な雑談は有効なコミュニケーションである。このネットワークを社内のみならず社外へも伸ばしていきたい。
  • いろいろな人々を巻き込んでシステム思考を行ってほしい。
  • 社員一人ひとりが「学習する個人」であることが必要である。
  • 7カ条を利用して欲しい。
    • 1.人や状況を責めない
    • 2.できごとではなくパターンをみる
    • 3.このままのパターンと望ましいパターンのギャップをみる
    • 4.パターンを引き起こしている構造(ループ)をみる
    • 5.目の前だけではなく全体像とつながりをみる
    • 6.働きかけられるポイントをいくつも考える
    • 7.システムの力を利用する

■読後感
システムでものを考えることは、例えば学問の世界でも因果性を明らかにするために利用されている方法であり、古くはケネーの経済表などにも通じるところがある。
しかし、この考え方はたとえば一つの組織の取り組みとして閉じている内容であれば可能だが、それを超えたものを想定するとたちまち壁にあたってしまう。
ある意味では「政府」という組織は、こうした問題に専門に取り組むための部署と考えることはできないか。法を用いた規制力は、「旧システムから新システムへの移行」に振り向けられるべきではないか。(しかし、政府がこれまでやってきたことは対症療法が中心である。)
そのためには、セクションを超えた存在である長の権限を実効あらしめることが必要となる。
著者(枝広氏)は、100万人のキャンドル・ナイトを呼び掛けており、持続可能性が目的ではあるが、身近でちょっとした行動を訴えたため広がっていったという実績をもつ。