岩波書店編集部編『いま、この研究がおもしろい』岩波ジュニア新書、2005年6月

いま、この研究がおもしろい (岩波ジュニア新書)

いま、この研究がおもしろい (岩波ジュニア新書)

■内容【個人的評価:★★★−−】
○「薬の開発のために脳をきわめる《大脳生理学》池谷裕二

  • 二人のヒッチコックの絵、じつは両方とも同じ濃淡なのに、一方は白く、他方は黒く見える。これは地となる背景の違いによるものである。このように、現実の世界とわれわれが感じる世界は一致していない。
  • 脳は、光の情報を処理し、同じものを違うものとして解釈した。こうした脳の判断が私たちの意識のすべてであって、実際の世界がどうなっているかは感知外なのである。
  • 脳は、古代の原始生物時代に形成された部位(上丘)と、ヒトになってから大きく発達した部位に分けられる。光も、この二系統で別々に処理をされ、正確な処理ではあるが無意識に属するもの(上丘)と錯視を生む処理に分けられる。
  • 薬学部で研究しているが、からだの仕組みと薬の研究は密接にかかわっている。脳を研究することにより、痴呆を治療する薬をつくることを目指している。
  • どうしたらすばらしい発見ができるのか。それは問題意識を持つことによる。ただ見るだけでは発見とは言えない。目の前に見えている事実の重要性に気づいてこそ発見といえる。その重要性に気づくのは問題意識を持っているかどうかである。
  • セレンディピティーが訪れるかどうかは、周到に努力と勉学を積み重ねてきたかにかかっている。

○「暴力の連鎖を止める鍵を求めて《暴力の政治的ダイナミズム研究》竹中千春」

  • 9.11に見られるような暴力の連鎖が生じている。アメリカはその後の戦争に勝利したが、戦後の秩序が築けていない。
  • 学問的には、「なんで暴力がおこるのか」ではなく「誰がなぜ暴力を使うのか」が問われなくてはならない。
  • ビン・ラディンブッシュ大統領も人を殺すという残酷な行為を正当化するために「正義」を主張する。
  • 暴力に視点をあてると、世界は二つ、安全で豊かな社会と危険で貧しい社会に分けられる。
  • ガンディーの主張した「非暴力の政治」は、道徳の政治であり、現在にも通用する普遍的な力を持っている。

○「新しい脳の科学とロボットを生み出す《福祉工学》伊福部達

  • 日本では高齢化が進むとともに情報化も高度に進んできている。
  • これまでも失われた機能を機械で置き換えようとする医療工学が発達してきている。福祉工学は人を改造するのでなく、身の回りを改造するという考え方である。しかしマーケット自体が小さいという難点がある。
  • 大脳が失われた機能を補おうとする可塑性に着目すべきであり、すべて機械により対応するという考え方はとらない方がよい。

○「平和を築くための教育とは《国際教育開発学》小松太郎」

  • 単に戦争のない状態は「消極的平和」といわれる。これに対し、平和を脅かす要因が社会からなくなった状態を「積極的平和」と呼んで区別している。
  • イデオロギー、宗教などは紛争の原因となるものだが、適切な教育を通じて、紛争を回避できると考えている。紛争の地コソボで活動してきた。

○「音楽を通じて人々の「想い」を理解する《ラテンアメリカ音楽研究》西村秀人」

  • ラテンアメリカの音楽は多様で、たとえばアルゼンチンにはタンゴ、ブラジルにはサンバといったその国を代表する音楽ジャンルがある。音楽は町の人々の生活に根差している。
  • ポピュラー音楽研究というジャンルは確立されているとは言えない。

○「不思議な状態《超臨界流体研究》西川恵子」

  • 水の中でメタンが燃える、水を超臨界状態=液体とも気体ともつかない状態にするとこんなことが起こりうる。
  • 抽出溶媒にするという応用が考えられる。たとえばコーヒーからカフェインを抜くなど。

○「中小企業はエキサイティングだ《中小企業論》中沢孝夫

  • 中小企業について賃金の格差であるとか、下請け関係にあるなど不利益を強調されるが、しかし、実態は力強く経営を続けている。また、創意工夫を重ね、やりがいある職場も多い。
  • 大企業も金型や精密加工など中小企業を必要としている。
  • 2005年の今、着目しているのはナノテクである。超小型ポンプなどである。
  • 通説と実態は必ずしも一致しない。中小小売商を滅ぼしてしまうといった観点で大店法(1973〜1997)が定められ、大型店は郊外に立地したが、かえって集客力のある施設を外に置くよりも中心市街地に置いた方が商店にも人が集まるとの観点から中心市街地活性化法により呼び戻しを図っている。
  • 私は目的や目標を持って人生を歩いてきたわけではない。しかし無駄な経験は一つもなかった。

○「文化遺産を次世代に伝える《文化財保存学》佐野千絵」

  • 展覧会で飾られる絵は密封されて外気と触れさせないことも多いが、密封するときに汚れた空気が入り、変色してしまうこともある。
  • もともと日本家屋は風通しのよい作りだったが、現在では高気密化が進み、シックハウス対策がとられている。
  • 人間がいたくない環境は文化財にとっても適切な環境とは言えない。
  • 十分に乾燥した木材を使ったり、酸性やアルカリ性の揮発性物質を出さない材料を使うなど注意するようになった。

○「昔の環境を科学する《植物遺伝学》佐藤洋一郎

  • 遺跡発掘により出土したものをDNA考古学を利用し、当時の暮らしが分かるようになってきている。

○「隕石で宇宙物質の起源と進化をさぐる《惑星科学》永原裕子」

  • 隕石のほとんどはコンドライトという物質であり、その生成を確認することは太陽系成立の謎を解くカギとなる。

○「シュバイツァーを超えたい《精神医学》中沢正夫」

  • 家が鍛冶屋で貧しかったので、医学部に進んだ。
  • 精神医学を専攻した。その当時開放病棟の考えが実行に移された。
  • 日本では入院治療中心主義であるが、西欧では地域で治すという方向が推し進められている。

○「韓国の絵本と児童文学にひかれて《韓国児童文化研究》大竹聖美」

  • 韓国にはじつは児童文学が豊富である。この研究を通じ日本を客観的に見ることもできた。

○「誰もが自分らしく生きるために《美容福祉学》渡辺聡子」

  • 美容福祉は年齢にかかわらずその人らしく生きるための手段である。

○「自分と近所と世界を知るために《イラク地域研究》酒井啓子

  • 相手国との違いをきちんとふまえた研究が必要。