岩田規久男『デフレの経済学』東洋経済新報社、2001年12月
- 作者: 岩田規久男
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2001/12/01
- メディア: 単行本
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- 1991年以降の「失われた十年」について、三つの原因が挙げられている。
- 2と3は、土地・労働・資本といった資源の適切な移動の妨げにより潜在成長率が低下したという点で共通している。
- 本書では低成長の原因を1に求め、産業構造調整と不良債権処理の遅れはともにフローとストックのデフレの結果であって原因ではないという立場に立っている。もし、2や3が原因であれば供給能力が低下し需要が供給を上回ることによるインフレが起きたはずである。
- 海外からの低価格製品の輸入によりデフレが生じるという「輸入デフレ説」は、貨幣供給量の増加を一定として考えたとき、安い製品が大量に輸入されたときに、輸入品と競合しない製品価格も下がるということを前提としている点において誤っていると考えられる。
- 不良債権の処理を行うことが健全な企業への融資の拡大につながるという主張がある。しかし、不良債権の処理は、バランスシートからその債権が消えるだけであり、これにより銀行の自己資本比率が上昇するわけではない。自己資本比率を上昇させるためには、配当を減らして内部留保を厚くしたり、増資したりする以外にはない。不良債権の最終処理が望ましいのは、その方が損失の拡大を回避できると高い確率で予想される場合に限られる。それ以外であれば、引当によって処理をした方がいい場合だってある。
- 現在デフレにより健全な債権ですら不良債権になってしまっている状態であり、デフレを止めることが最優先の課題である。
- たかだか2%弱のデフレがなぜ産業構造調整を困難にし、不良債権を増やしてしまうのか。それは、マイルドなデフレの下でも名目賃金と名目金利が下がりにくいため、実質賃金と実質金利が高止まりし、雇用と投資の減少を招くという点にある。
- デフレを止めるためには、金融の量的緩和(それによる円安を含む)以外にはない。
- IMFの基準では、少なくとも持続的に二年間にわたって消費者物価指数が下落する状態を指してデフレといっている。日本では、戦前にデフレが何回か起きていた。しかし、戦後は1999〜2001年だけである。デフレは極めて稀な現象となった。
- インフレは貨幣の購買力を低下させ、デフレは高める。したがって消費者にとってはデフレの方が望ましいが、労働者としての側面から見ると、所得が下がる可能性が出てくる。逆にインフレでも所得も上昇する可能性があるので、必ずしもどちらが悪いとは言い切れない。デフレやインフレがどのように生じ、経済全体にどのようなメカニズムを通じてどのような変化をもたらすかを知る必要がある。
- 消費者物価指数には、輸入品も含まれる。もっぱら企業等が利用する機械の価格は含まれない。一方、GDPデフレーターには国内で生産されるもの=国内総生産(GDP)の価格を反映する。
- 卸売物価指数は1991年以来、波はあるが一貫してマイナスであったが、消費者物価指数は、1994年まではプラスであった。卸売物価指数はモノの価格であるが、消費者物価指数にはサービスを含んでいる。サービスを構成するのは人件費の割合が高く、人件費はそれほど低下しない傾向にあることを裏付けている。
- 物価は、一日とか一週間といったある期間に取引されるモノやサービスの価格である。これはフローというが一方、株式や土地などの資産はある時点で定義される価格であり、ストックという。株式は1989年から、土地は1990年から持続的に低下している。
- 消費者物価は生計費と比べ「上方バイアス」を持っている。それはたとえば牛肉の価格が高くなったときに鶏肉が多く消費されるようになるといった「代替効果バイアス」、また価格が変わらなくても品質が向上しているといったことなどから、実際の生計費(量的、質的)は消費者物価指数よりも低くなる。
- 1990年代の世界的見地から見た経済の状況は以下の通りである。
- 1.主要国中で低成長グループに属することとなった(一人当たり国民所得はアメリカが上回ることとなった)
- 2.失業率が日米で逆転した
- 可処分所得が低下したのみならず、地価と株価が回復しないことから、所得の増加をあてにできなくなり、消費がこれまでの消費関数よりも低くなってしまった。
- 1997年には、山一証券が破たんし、雇用不安が一挙に高まった。とりわけ新卒女子の就職市場は超氷河期が続いた。2001年3月時点では、15〜24歳の若者の一割は職に就けなかった。若者の失業は両親の負担となるため、消費は抑制される。
- 根拠のない予想によって地価が上昇し続けることをバブルという。しかし、このバブルはファンダメンタルズ(将来にわたって得られる税引き後の地代、金利、流動性プレミアム)に基づかない地価上昇であるから、人々の地価上昇期待が弱気になれば、たちまち破裂し、地価は暴落してしまう。1980年代後半の地価上昇は、ファンダメンタルズの向上もあるが、ほとんどはバブルであった。
- 将来の賃貸料と地価に関する弱気の予想が、金利の低下にもかかわらず地価の下落が止まらない原因だと思われる。では、なぜそうした予想をするのか。それには以下の理由が考えられる。
- 一方、株価を決める要因は以下の3つある。
- 1.配当
- 2.金利
- 3.リスク・プレミアム
- これらファンダメンタルズに基づかない部分の株価がバブルである。
- 89年末から93年末までの間に、約890兆円あった株価総額は約394兆円にまで落ち込み、この期間のキャピタル・ロスは名目GDP(約470兆円)に匹敵することとなった。
- 貨幣供給量が増えると物価が上昇し、貨幣供給量が減ると物価が低下する。
- 第二章で検討したような一般説に変わり、安い輸入品の増加が原因であるという「輸入デフレ説」や技術革新による生産性の上昇にデフレの原因を求めるエコノミストが多くなってきた。しかし、これはインフレもデフレも貨幣供給量の長期的変化によって起きる貨幣的現象であるという考え方と対立するものである。
- ただし現実の経済をみると、貨幣供給量の増加がすなわち消費者物価の上昇には結びついていない。物価は、貨幣供給量の変化だけではなく、貨幣の所得流通速度や実質経済成長率の変化にしたがって変わる。現在、貨幣の所得流通速度は低下している。しかし、貨幣供給量の変化率は一定のタイムラグ(5〜10年)をおいて消費者物価の変化率に影響を与えている。現在は、貨幣供給量の増加率が1920年代と同じく低い水準にあり、消費者物価の上昇率も低い。長期的には貨幣の所得流通速度は低下する傾向にあるが、デフレはその低下に拍車をかける。
- 野口悠紀雄などは、中国からの安い商品の輸入がデフレを招いているとしているが、日本以上に中国製品を輸入しているアメリカではデフレは起きていない。ポール=マンキューの議論では、輸入財の価格下落は非輸入競合財の価格を上げるはずであるが実際には両方とも下落している。
- 不良債権の処理が骨太方針にも明記されているが、処理を行った方がいいケースと回復を待っている方がいいケースがあるはずである。