米本昌平『バイオエシックス』講談社現代新書、1985年1月

■内容【個人的評価:★★★−−】
○プロローグ

  • 1980年代に入り、遺伝子組み換えとか臓器移植などの技術が進歩しつつあるが、一方でこれを社会がどう受容するのかといった安全性や倫理問題については明確でない。この本では、いくつかのテーマに焦点を絞り、問題を整理してみたい。
  • バイオテクノロジーの利用により、何がどのように処理されてといった具体的なプロセスは実はあまり情報として流れてきていないのが現実である。

○第一章「科学・科学者・ジャーナリズム」

  • 科学者は専門誌への投稿のために実験し、論文にまとめるための訓練を受けているが、専門用語を利用し、閉ざされた集団にとどまっており、社会的還元はなされていない現状がある。
  • 学術文献の読解能力は自分の専門から離れれば離れるほど落ち、現代の科学者は、わずかな隣接領域を除き、ほぼ文盲の状態にある。
  • 概して専門研究者による未来予測は常に楽観論に傾き、ほとんどが外れてしまう。
  • 新聞社は多数の政治記者を抱えているが、こと科学の分野になるとまったく分析能力がゼロに等しくなる。
  • 新聞が書き上げ、一般に定着させてしまった、遺伝子組み換えをはじめとする生物技術のイメージは、その実像に比べおおむね過大である。

○第二章「バイオテクノロジーの行方」

  • 画期的な論文ほど控えめな書き出しに始まるという原則にたがわず、現在最も普通に用いられている遺伝子組み換え法を確立した1973年のコーエン・ボイヤーの論文も実にそっけない。
  • バイオテクノロジー関係企業の株価は公開後高値を迎えるがその後下落する傾向にある。適用範囲がイメージほどには大きくないのである。

○第三章「遺伝子治療の光と影」

  • アメリカにおけるバイオエシックスの考察の対象は、
    • 1.生物技術の安全性と規制
    • 2.最先端医療における倫理問題
    • 3.医療における個人の主権の問題 である。
  • アメリカではとりわけ宗教上の問題と結びついて、また法律作りに熱心な社会であることがバイオエシックスが盛んに研究されることの背景にある。

○第四章「拡大する対外受精操作」

  • 人間の通常の受精は、膣内に射精された精子が、子宮頚管部→子宮→卵管を経て卵子と結合することにより行われる。不妊の原因の40%は妻にあり、その3分の1は卵管の障害である。人工受精は、これを卵子を取り出して行うことである。
  • 高価という問題もあるが、より大きいのは余った胚の取り扱いである。

○第五章「臓器移植と脳死

  • 腎移植が急増しており、臓器の不足の問題、臓器売買の問題が取りざたされている。
  • 臓器移植と脳死は密接に関係している。日本では脳死者の臓器移植に抵抗がある。
  • 植物状態と脳死は異なる。脳死は脳以外の器官や細胞が生かされている状態である。
  • 胎児診断による中絶も行われているが、障害者差別につながるという反対の声が大きい。