浅田次郎『沙高樓綺譚』文春文庫、2011年11月

沙高樓綺譚 (文春文庫)

沙高樓綺譚 (文春文庫)

■内容
都心のマンションの最上階で、さまざまな世界を極めた人々が集まった中で語られる独自の経験談を物語形式で描いた小説。

■読後感
巻頭の「小鍛冶」が秀逸だった。歴史上の名刀をたぐいまれな鍛造の技で贋作する現代の刀鍛冶精三と、その作品にすっかり騙されてしまう家元鑑定人、これは名刀が作られた歴史的背景を含め興味深かった。
また、100年かけて、軽井沢の地に先代当主の意思を実現する庭園を作り出す使用人の庭師、庭作りがもっとも重要な価値を持つものであって、それを邪魔するものは、たとえそれが主人であっても許さず、葬り去ってしまう。
そして、暴力団のトップに上り詰めた男の話、抗争に巻き込まれながら、人を殺すということが実際にどういうことなのか、また、自身の経験をふまえ、人間がいかに中途半端で醜いものかということを語る。

「本当のことを語る」がこの会の趣旨だが、思えば、何かを成した人々が自分を語るとき、通常決して語れない部分があるはずだという観点があるのではないか。生はもとより「矛盾」というものを抱え込んでおり、決して単線的なものではない。