太宰治『斜陽』新潮文庫、2003年5月

斜陽 (新潮文庫)

斜陽 (新潮文庫)

■内容
第二次大戦後、没落して東京から伊豆へ移住せざるを得なくなった華族の暮らしを描いた作品である。

■読後感
この作品にはいくつものテーマが含まれている。天性の晴れやかさと芯の強さを持ったお母様、お母様を慕いつつ自らの行く末を案じている、この作品の語り部でもあるかず子、そして華族という立場に疑問を持ち、人の存在について考えずにはおれない、戦争から復員してきた弟の直治。それぞれの存在、振る舞い、考え方がこの作品の深みを作り出している。それはたんに、華族という特殊な立場にとどまらず人間存在の普遍的な問いを考えさせる。

なぜ普遍的であると思うのか。それはどんな人でもかすかにではあっても、今がこのまま続くはずはない、という感覚があるせいではないかと思う。境遇が変わるときの不安、そして将来の家族のことに対する不安、これは誰の心にもあるはずだ。