村上春樹「独立器官」(『文藝春秋』平成26年3月号)、2014年02月

■内容
 独身の整形外科医として人生を順調かつ華やかに過ごす渡会医師。彼は都心のマンションに住み、教養ある女性との軽やかな関係を通じて理想の生活を手に入れるが、あるとき深い恋の悩みに落ち、それは彼の命を奪うものとなる。

■読後感
 渡会医師のような人生、つまり、自ら設計し、美しくまた楽しく、度を過ごさず、あくまでも軽やかにかつ教養にあふれた生き方を求める人、あるいは求めないまでもあこがれる人は多くいるのではないでしょうか。これは言葉を換えて言うと自分で支配する、純化された生き方と言えるかもしれません。こうした基礎的な考え方に立脚して人生を組み上げることは現実的にはまず不可能に近いと言えるでしょう。しかし一方で、この作品を読むと、「理想の人生」が実現してみるとそれはある面では破たんのしやすさというものを併せ持っていることを感じました。いっぽう、不純物に満ちた人生は、自ら支配することのできない人生ですが、支配されているがゆえにまた破たんもしにくいと言えるのかもしれません。