長野由紀『バレエの見方』新書館、2003年9月
- 作者: 長野由紀
- 出版社/メーカー: 新書館
- 発売日: 2003/09
- メディア: 単行本
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- 最近バレエの公演に通うようになり、その内容を深く理解したい
- スタンダードなナンバーの見どころなどについても解説している
- 飽くまでも「私の場合は」という但し書き付きで名作バレエの魅力を語りたい。
- わたしにとって「いいバレエ公演」とは主役がすばらしかった舞台、これに尽きる。
- 主役がいいというのは、その役にふさわしい表情を持っていること、視線の投げ方、間のとり方、動きのアクセントなど、瞬時の強烈な印象である。
- この書では、本当に書きたい十四のテーマに絞った。そして、最初は迷わずジゼルを選んだ。
- 《物語》
- 第一幕 中世のドイツ。生まれつき身体の弱いジゼルが母親と二人で暮らしている。このジゼルのもとに伯爵の身分を隠し、アルブレヒトが通ってくる。これを快く思わない森番のヒラリオンは、嫉妬にかられ、衆人の前でアルブレヒトの身分とアルブレヒトにはすでに婚約者がいることを暴露してしまう。ジゼルは衝撃に打たれ命を落とす。
- 第二幕 死んでしまった娘は妖精ウィリとなり、女王ミルタに率いられ夜な夜な姿を現し、通りかかった男を死ぬまで踊らせる。墓参りに来たヒラリオンも踊り殺され、次にミルタはアルブレヒトを手にかけようとする。しかし、ウィリの一人になったジゼルが懸命にその命を護り、夜明けとともにミルタは地下に戻っていく。ジゼルはアルブレヒトに永遠の別れを告げて帰っていき、その墓の前にアルブレヒトがただ一人残される。
- この作品は、ダンスとドラマ、愛と死、現世と異界という対称をなす要素が対立しつつ混じり合った名作中の名作である。
- このバレエで思い描く細部としては足首から先のフットの部分があげられる。
- 《物語》
- 第一幕 スコットランドの農家、今日は結婚式という青年ジェイムズは、夢にみた妖精シルフィードが目の前にいることに驚き、つかまえようとする。しかし、シルフィードは煙突から逃げていってしまう。ジェイムズとエフィーの婚礼の準備が始まるが魔女のマッジが手相見をし、婚約者のエフィーはジェイムズとは結ばれないだろうと占う。一人になったジェイムズの前に再びシルフィードが現れ、それを追ってジェイムズは森へと入っていってしまう。
- 第二幕 森の中でジェイムズとシルフィードは楽しそうに踊る。しかし、その腕の中にシルフィードをとどめられない。ジェイムズが一人になったところでマッジが現れ、怪しい煎じ薬で煮しめたスカーフを渡し、これを背にかければ羽が落ちてシルフィードがジェイムズのものになるという。しかし、そうしたところ、羽が落ちるだけでなく、シルフィードは生気を失い死んでしまう。
- アイメイクが重視されているが、「視線の力」といってまず思い浮かぶのがこの演目である。
- チュチュやポワント技法の活用を初めて打ち出した演目でもある。
- ラコット版、ブルノンヴィル版の二つがある。
- ラ・シルフィードと同じように、古いバレエに新たな命を吹き込まれた作品である。
- リーズのリボンの使い方(Xをリボンで作り、キスを促す)が特徴的である。
- 《物語》
- 第一幕第一場 中世北イタリアヴェローナの町。モンタギュー、キャピュレットという宿縁の二つの家に、ロミオという息子とジュリエットという娘があった。大公は、この両家に対し、流血沙汰があれば町から追放するといっている。
- 第二場 ジュリエットの家で舞踏会。ロミオはここに忍びこみ、ジュリエットと恋に落ちる。
- 第三場 ジュリエットのバルコニー
- 第二幕第一場 街の市場、ジュリエットの乳母がロミオのもとに手紙を携える。
- 第二場 二人は秘密の結婚式をあげる。
- 第三場 ティボルトの挑発からロミオの友人マキューシオが命を落とし、ロミオはティボルトを殺してしまう。
- 第三幕第一場 ロミオは追放処分を受け、ジュリエットと一夜をともにした後、出てゆく。ジュリエットは死を装う秘薬を使い、仮死状態となる。
- 第二場 埋葬されたジュリエットのもとにロミオが駆け付け、毒薬をあおって死んでしまう。ジュリエットは目覚めるが後を追って死んでしまう。
- プロコフィエフのこのバレエは、さまざまな版がある。
- とくにジュリエットはソロよりもパ・ド・ドゥが見どころ。
- 《物語》
- 第一幕 ポーランド南部、村の娘スワニルダは若者フランツと愛し合っている。しかし、その彼は人形師コッペリウスの家のベランダで読書している美しい娘に心引かれている。
- スワニルダは鍵を拾ってコッペリウスの家に忍びこみ、フランツも梯子をかけて忍びこもうとする。
- 第二幕 コッペリウスの工房。スワニルダは例の娘コッペリアが人形であることがわかる。家に戻ってきたコッペリウスは忍びこんでいたフランツを酔わせ、その魂をコッペリアに命を吹き込もうとする。しかし、スワニルダが人形になりすましてコッペリウスを手玉にとり、コッペリアが人形に過ぎなかったことをフランツに教え、よりを戻す。
- 第三幕 鐘のおひろめの祭り。みな幸せになり大団円。
- コミカルな踊りが最大の見せ場である。
- 外見は人間そのものであるのに、不自然な関節の動き、視線も固定したままである。
- 《物語》
- プロローグ 老郷士ドン・キホーテは、騎士物語を読むうち現実と虚構の違いが分からなくなり、サンチョ・パンサを供に旅に出る。
- 第一幕 バルセロナの広場。キホーテは、旅篭の看板娘キトリをあこがれのドゥルシネア姫と思い込む。
- 第二幕第一場 居酒屋。キトリと恋人の床屋バジルが逃げ伸びてくるが、キトリの父親と、キトリと結婚させたいと考えている貴族ガマーシュ、キホーテ、サンチョが追いかけてくる。キトリとバジルの二人は狂言自殺を図り、父親も仲を認める。
- 第二場 ジプシーの野営地、キホーテは歓待されるが、人形芝居の悲恋物語を見て激高し、風車を悪魔と信じて突進し、跳ね飛ばされて気を失う。
- 第三場 気を失ったキホーテの夢の中。森の中であこがれのドゥルシネア姫と踊るが、やがて目覚める。
- 第三幕 キトリとバジルの結婚式を見届け、さらなる冒険に旅立ってゆく。
- 爽快なバレエである。バレリーナのほとばしる生気に、見る者の地も騒ぐ作品である。
- 踊り手の個性は第一幕の踊りで雄弁に物語られる。
- キトリは直情的で楽天的であり、踊りもエネルギッシュである。
- プティパの時代に、つま先立ちは異化効果から発展してポワント・ワークの妙味にまで高められたが、これがこの作品で発揮されている。
- ポワントは、指し示すという意味があり、つま先が視線を導く役割を果たす。
- 舞踊としてのクライマックスは、キューピッド、ドライアドの女王、ドゥルシネアそれぞれのヴァリエーションが終わり、上手奥からの対角線上を女王、次いでドゥルシネアが横切っていくところである。
- コーダで展開される32回のフェッテに目を奪われがちであるが、醍醐味はアダージョにあるのではないか。
- 《物語》
- プロローグ 十七世紀フランスを思わせる王国。国王夫妻に長く待たれていた姫が誕生する。洗礼式に、悪の精カラボスが現れ、十六歳の誕生日に糸紡ぎの針に刺されて死ぬという呪いをかける。人々がうろたえる中、まだ贈り物をしていなかったリラの精が呪いは消せないが、姫は死ぬのではなく百年の眠りにつくと予言する。
- 第二幕 オーロラ姫の十六歳の誕生日、求婚しようと4人の貴公子が来ている。しかし、オーロラ姫は老婆に変装したカラボスが差し出した花束に紡ぎ針で指を刺され、倒れてしまう。そこへリラの精が現れ、杖を一閃して城を眠りにつかせる。城はいばらに包まれていく。
- 第二幕 百年ののち、デジレ王子が森に狩りにやってくる。リラの精が現れてオーロラの幻を見せ、王子は城に分け入る。デジレ王子はそこで現れたカラボスを倒し、姫を口づけで目覚めさせる。
- 第三幕 オーロラ姫とデジレ王子の結婚式。絢爛たるバレエ絵巻。
- オーロラ姫の評価は第一幕で決まる。オーロラ姫の入場からローズ・アダージョ、そしてヴァリエーションと続く一連のパ・ダクシオンは、舞台に登場した瞬間の華、ついで示される技術、そうした試験を経た個性のきらめきを見せるという名場面である。
- バレエにおいて、指先の表現はつま先と同様、これがなければ無に帰してしまうものである。1990年3月の日本バレエ協会による公演でオーロラ役だったノエラ・ポントワはまさにそうした表現がすばらしかった。ポントワ以降では、デュランテや吉田都が思い浮かぶ。前者は自由、後者は規範的であった。
- バレエにおいては、両足はクラシックのステップを守り、上半身はそれに民族性を加味する。
- この作品は英国ロイヤルバレエ団の伝統でもある。
- 作品のテーマやモチーフなど、ロマン主義とは決別し、古典の世界に立ち返るという変化がみられる。
- 20世紀の作品であるが、ハンガリー舞踊の民族色を濃厚に漂わせている。
- ライモンダは眠れる森の美女と通じるところが多い。
- 悪役の魅力ということでは出色である。
- 全員がパワフルで個性的な脇役であるという特徴がある。
- 主演ダンサーの見せ場が極端に少ない作品。
- 他の作品が、男性が美しい女性を追い求めるという図式なのに対し、少女が夢見るということがバレエの特徴。
- 最後のパ・ド・ドゥとそれに至る長いプレリュードからなるバレエ。
- 《物語》
- 第一幕第一場 十八世紀初めのパリ。旅篭の前に一台の馬車が止まり、マノンが降りてくる。マノンは、純真な青年デ・グリュと出会い、恋に落ちる。
- 第二場 二人はパリに落ち伸びて幸せに暮らすが、マノンの兄が現れ、豪華な宝石に目がくらんだマノンは恋人を捨てて去ってしまう。
- 第二幕第一場 遊興の館。マノンにデ・グリュは元に戻るよう請う。
- 第二場 マノンは贅沢への執着を捨てる。血まみれの兄が運びこまれ、射殺されてしまう。
- 第三幕第一場 ニューオーリンズ。売春の罪で送られてきたマノンに看守が目をつける。
- 第二場 デ・グリュは、マノンを慰みものにした看守を刺し殺す。
- 第三場 逃げた二人は沼地へたどり着く。錯乱し衰弱したマノンはデ・グリュに抱かれて息を引き取る。
- 《物語》
- 第一幕第一場 古代のインド。ソロルが虎をしとめて帰ってくる。ソロルは寺院の舞姫(バヤデール)ニキヤと愛し合っている。
- 第二場 ラジャ(藩王)は一人娘ガムザッティの婿にソロルを迎えようとする。ガムザッティはニキヤのことを知り、激しく対立する。
- 第二幕 ラジャの宮殿で、ガムザッティとソロルの結婚式。宴たけなわでニキヤが悲しみに満ちて踊りを献納する。ニキヤはソロルから手渡されたという花籠を持って踊るうち、その中から出てきた毒蛇に胸を噛まれ、倒れる。ニキヤは解毒剤を受け取らず死んでいく。
- 第三幕第一場 影の王国。ソロルは悲しみと罪悪感からアヘンを吸う。夢にバヤデールが現れ、ソロルはニキヤに許しを乞い、目覚めて結婚式の日を迎える。
- 第三幕第二場 結婚式の日。ニキヤの亡霊が現れ、ソロルを誘う。寺院は音を立てて崩壊し、人々は死に絶え、二人は永遠の世界に上ってゆく。
- 《物語》
- 第一幕 とある王国。成人式を明日に迎えた王子ジークフリートは、母后から明日の舞踏会で花嫁を選ぶよう命じられる。
- 第二幕 岩がちの荒涼とした風景。王冠をいただいた一羽の白鳥が岸辺に上がり若い娘に姿を変える。そこに現れた王子に、悪魔ロットバルトに魔法をかけられ昼間は白鳥の姿にされており、魔法を解くには誰にも恋したことのない青年が終生の愛を誓ってくれなければならないことを伝える。
- 第三幕 城の壮麗な大広間。花嫁候補が登場するが、王子の心は動かない。そこにロットバルトに連れられオデットそっくりのオディールが現れ、王子はオディールに愛を誓ってしまう。しかし、窓の外の本当のオデットを見て、王子は自分の過ちに気が付き、オデットを追って湖へゆく。
- 第四幕 再び湖畔。命を絶とうとするオデットを白鳥にされた娘たちが必死にとどめる。王子が駆け付けて裏切りを詫びる。悪魔が現れ、オディールへの誓いを全うするよう迫る。絶望したオデットは湖に身を躍らせ、王子も後を追う。悪魔は死を恐れぬ愛の力の前に滅び去る。
- 今日に至るまで多種多様な演出が行われてきたが、第二幕だけは聖域であり、ここだけは特別の扱いとなっている。オデットの踊りの大部分はここに集中している。
- 湖畔の夜気を震わせるような弦の高まりとともに上手奥から姿を現し、大きく一つ跳んで静止、しばし間をおいてアラベスクから上体をそらしてクロワゼのポーズ。三度目のアラベスクとともに王子が現れる。
- オデットの叙情性は、高度な技術、周到さ、知性などの要素の集大成である。
- ポエティックな表現、ドラマティックな表現のスタイルがあるが、後者の方が印象に残るようだ。
- アラベスクはこの演目で象徴的。オデットとオディールのアラベスクは異なる。
- ブルメイステル版では第三幕が第二幕に劣らない。
バレエの筋と見どころを把握することができる。しかし一つひとつの基本的な動作や意味については別途学習が必要。
改めて見てみたい演目としては「ジゼル」「ラ・シルフィード」「ドン・キホーテ」「眠れる森の美女」「ライモンダ」「くるみ割り人形」「ラ・バヤデール」そして「白鳥の湖」である。