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橘玲『大震災の後で人生について語るということ』講談社、2011年7月

大震災の後で人生について語るということ

大震災の後で人生について語るということ

■内容【個人的評価:★★★−−】

  • 私の危惧は、日本人も日本社会もますますリスクにたいして脆弱になっているのではないか、ということにあります。日本社会を今大きな不安が覆っているとすれば、その一つの理由は、日本人の人生設計のリスクが管理不能になってきたからです。これから、戦後の日本人の人生設計を支配してきた四つの神話が崩壊してきた様を順に述べます。それは、不動産神話、会社神話、円神話、国家神話で、人生の経済的な側面から言えば、ポスト3・11とは、神話を奪われた世界を生きることです。
  • しかし、私たちはいまだに神話なき時代の人生設計を見つけることができず、朽ちかけて染みだらけの設計図にしがみついています。

◎PART1「日本人の人生設計を変えた四つの神話」
○1「日本を襲った二羽の「ブラックスワン」」

  • ほとんどの人が忘れてしまっているでしょうが、1997年にも私たちは巨大な黒い鳥と出会っています。97年7月、タイのバーツ暴落をきっかけに東アジア・東南アジア諸国を未曾有の通貨危機が襲いました。不動産バブルが崩壊したタイは失業者が街に溢れ、IMFの救済を仰いだ韓国ではほとんどの財閥が消滅し、インドネシアは食料価格の高騰で暴動や内乱が頻発し国家解体の瀬戸際まで追い込まれました。金融危機は日本にも飛び火して、11月には三洋証券、北海道拓殖銀行山一証券が相次いで経営破綻しました。
  • 人類史上はじめてのグローバル経済恐慌が起きた翌年、日本の自殺者数は前年の24391人から32863人へと大きく跳ね上がりました。

○2「不動産神話 持ち家は賃貸より得だ」

  • よほどの大金持ちでもない限り、マイホームを購入すると、個人の資産ポートフォリオは一極集中型になってしまうのです。
  • 株式の信用取引レバレッジ率が三倍程度ですが、ハイリスク・ハイリターンの投資とされ、素人は手を出してはならないと言われてきました。それに対してマイホームの頭金は一般に購入価格の20%なのでレバレッジは五倍となります。バランスシートで見れば両者は同じことですから、マイホームの購入というのは、不動産の信用取引のことです。

○3「会社神話 大きな会社に就職して定年まで勤める」

  • ポートフォリオに占める人的資本と金融資本の構成は、年齢に応じて自然に変化していきます。人生設計とはすなわち、この人生のポートフォリオを適切に管理することなのです。
  • サラリーマンになるということは、会社から毎月給料という配当を受け取り、退職金として元金が償還される債券を買うようなものなのです。
  • 日本の大手企業は終身雇用制を採用しているので、会社に就職した時点で定年までの人的資本の価値が確定します。人的資本を会社に投資してサラリーマン債券を購入するというのはとてつもなく有利な取引です。
  • サラリーマンが真面目なのは日本の気質ではなくて、仕事をさぼって解雇されたときに失うものがあまりにも大きいからなのです。
  • よくいわれるように、アメリカの会社は一般的技能によって、日本の会社は企業特殊技能によって運営されています。なぜこのようにきれいに二つに別れているかというと、日本人とアメリカ人が人種的・文化的に異なっているからではなくて、右側通行と左側通行のように、雇用慣行が二つの解を持つナッシュ均衡だからなのです。

○4「円神話 日本人なら円資産を保有するのが安心だ」

  • 通常のインフレ世界では、預金や債券よりも株式や不動産に投資するのが有利な選択となります。しかし、これまで述べているように、バブル崩壊後は、日本では株価も地価も下落を続けています。これは日本経済が長期のデフレに苦しんでいるからです。
  • 株や不動産はリスク資産ですから、価格が下落して損をする可能性があります。それに対して預金や債券は、元本が保証されている上にデフレの分だけ実質利回りがプラスになるのですから、これはきわめて有利な投資機会です。

○5「国家神話 定年後は年金で暮らせばいい」

  • 国家とは再分配の機能であり、お金を吸収しては吐き出すパイプのようなものなのです。
  • 日本国の財政も、借金が増えるにつれて臨海状態に近づいていることは間違いありません。このままでは、いつか必ず黒い鳥はやってきます。
  • 国家が債務超過になること自体は実は問題ありません。国家というのは、経済的には国民から税金を徴収して再分配するための単なる機能なのですから。政府が資産を持つ必要はないのです。ただし、個人金融資産などを加えた国全体のバランスシートで債務超過になっている場合は要注意です。原理的には、国債は国民の資産を担保に発行されているのですから、担保以上の借金をしていれば市場はいずれデフォルトを警戒し、国債の価格は下落することとなります。
  • もっとも効果的なのは、大連立政権をつくって、預金封鎖によって国民の金融資産を一時的に凍結し、資産税をかけて1400兆円の個人金融資産と国家の債務を相殺してしまうことです。
  • 年金制度を廃止するか、健康保険・介護保険制度を民営化してしまえば、将来債務も大幅に減って財政危機は解決してしまいます。
  • もしそれも無理というのであれば、国家の財政危機を解消する方法は、原理的には三つしかありません。増税で歳入を増やすこと、公共事業の抑制や社会保障費のカットで歳出を減らすこと、経済成長によって全体のパイを増やすことです。
  • 国家の財政赤字とは、要するに国家が通貨を過剰に印刷して市場に供給することです。通貨もまたひとつの商品ですから、当然需要に対して供給が増えれば価値は下がります。財政破綻とは、円の信用が失墜して通貨の価値が大きく毀損することです。このように考えると、国家破産は原理的に三つの経済事象しか引き起こさないことが分かります。
    • 1高金利
    • 2円安
    • 3インフレ
  • 国家破産は、国債の暴落から始まります。
  • 国家破産への経済への影響は金融危機として現れます。
  • 国債と不動産価格の下落、企業倒産の増大によって銀行は巨額の損失を計上し、株式市場は大混乱に見舞われるでしょう。
  • インフレなき超円安が日本で起これば、輸出企業は空前の業績をあげることとなるでしょう。ただしそうなると、困った問題がひとつ残ってしまいます。インフレによって債務を棒引きしないと、日本国の財政赤字の膨張は止まらないのです。

◎PART 2「ポスト3・11の人生設計」
○6「伽藍からバザールへ 人的資本のリスクを分散する」

  • 会社はもはや人件費コストの高い正社員を雇いたがりませんから、少ない社員で高い生産性を維持することを要求され、サービス残業は当たり前で、過労死寸前まで働かされても文句は言いません。その上転職しようにも再就職の可能性は少なく、伽藍の世界の日々が定年まで延々と続くのなら、中高年にうつ病が急増するのも当たり前です。
  • 会社に人的資本のすべてを預けることは極めてハイリスクな人生設計です。この残酷な社会を生き延びるには、伽藍を抜け出してバザールへと向かうことで、極大化した人的資本のリスクを分散しなければなりません。しかし、もしそれができなかったら、そのときは、人的資本のリスクを金融資本でヘッジすることになります。

○7「世界市場投資のすすめ 金融資本を分散する」

  • サラリーマンのおよそ四割が今の会社をやめたいと思っているとの結果が出ています。
  • 自分と家族を守ることができる最低限の金融資本を持つことを経済的独立と言います。
  • 私が世界株投資は個人にとって最強の投資法と考えるのは、時間コストを加味すればこれに勝るものはありえないからです。
  • ヒトという有限な生き物にとってもっとも貴重な資源は、お金ではなくて時間です。ウォーレン・バフェットのように世界中の企業の財務諸表を読み込み、徹底的に分析すれば、株価インデックスに比べて投資パフォーマンスを20パーセント引き上げられるとしましょう。しかし私は仮にこの必勝法を知っていたとしても実践しようとは思いません。私の投資額から考えると、その時間を仕事や趣味にあてたほうが人生の効用が遥かに大きく、それを犠牲にしてわずかな超過利潤を得たところでなんの意味もないからです。
  • 世界株ポートフォリオは、為替リスクに対して中立なのです。
  • 世界の株式市場の時価総額に合わせて通貨を分散投資するなどということを個人で行うのは不可能ですから、それをかってにやってくれるACWIはやはりものすごい金融商品なのです。さらに2011年3月、東証に上場MSCI世界株(1554)が上場されました。これはACWIから日本市場を除いた株価指数に連動するETFで、日本の個人投資家のニーズに最適化されています。(日本人投資家は大抵日本株を別に保有しているので、ACWIでは日本株の比重が高くなってしまうのです。)

○8「大震災の後で人生を語るということ」

  • 早急に行うべきなのは国だけではなく地方を含め公務員の給与を減額することです。
  • 次にやるべきなのは物価水準に合わせて年金の支給額を減額することです。
  • デフレの最大の受益者が公務員と年金生活者であることは間違いありませんから、この国難にあたって、これまで得てきた超過利潤を日本国に返還し、被災者の支援に充てるべきなのです。
  • 経済的な側面から見れば、国家は国民の所得を再分配する機能だと述べましたが、この再分配は大きく次の四つに分けられます。
    • 1ゆたかなひとから貧しいひとへの所得移転
    • 2公共事業に伴う所得移転
    • 3納税者から公務員への所得移転
    • 4若者から高齢者への所得移転
  • 3は、政府を維持するためのコストですから、一種の必要悪であり、同じ仕事が達成できるなら所得移転が少ないほど国民の便益は向上します。問題なのは4で、ある世代から別の世代への大規模な所得移転は、どのような理屈でも正当化することはできません。

■読後感
個人の資産についても貸借対照表を用いて説明しているところが非常に分かりやすい。
論理の整理にちょっと首を傾げたくなる部分はあったが、国家の危機的状況にはついてはまさにいうとおりであり、自己防衛が必要なのは確か。
ただし1997以降の経済社会は、世界同時○○という、リスク分散が難しい状態でもある。