坂村健『痛快!コンピュータ学』集英社インターナショナル、1999年11月

痛快!コンピュータ学

痛快!コンピュータ学

■内容【個人的評価:★★★−−】

  • なぜパソコンは消えていくのかーその理由は簡単です。パソコンはあまりにも難しいからです。
  • 単体として売り出されるのではなく、テレビやビデオ、電子レンジといった製品に組み込まれたものも現れてくるでしょう。

○第一章「コンピュータ学へ、ようこそ」

  • コンピュータによるオンライン化が行われる前、銀行で自分の預金を引き出すのは一仕事でした。今ではキャッシュカード1枚で済むところを、わざわざ預金通帳と印鑑を持っていき、銀行の窓口に並ばなければならなかったのです。しかも預金を引き出せるのは自分の口座がある支店だけで、同じ銀行であっても別の支店では引き出せなかったのです。ですから一人暮らしのサラリーマンが自分の預金を下ろそうと思えば、会社を休むぐらいの覚悟が必要だったわけです。旅先で現金を使いすぎてしまえば、これはもう万事休すでした。
  • コンピュータが誕生したのは1946年のことです。つまり、まだ半世紀しか経っていないわけですが、今やコンピュータは生活の至るところに使われるようになりました。これほどまでに爆発的に普及した発明は、人類の歴史上一つもありません。
  • こうしたコンピュータの分かりにくさのことをセマンティック・ギャップという言葉で表現することがあります。セマンティックとは英語で意味的なという意味。つまりセマンティック・ギャップとは意味のギャップなのですが、これは要するに一を聞いて十を知ることができないということです。
  • 世界最初のコンピュータは1946年に作られたと前に書きましたが、実際には、それ以前にもコンピュータを作ろうという人たちはいたのです。しかし、それがことごとく失敗か未完成に終わったのは、コンピュータを作るために必要なジグソーパズルのピースが全部揃っていなかったためなのです。
  • 科学技術が総結集されコンピュータが作り出されたのは、戦争という強い動機があったからです。
  • 日本の場合は、とにかくコンピュータを学校に配置すればいいという発想で終わっているように思えてなりません。つまり、コンピュータやインターネットを普及させることで、どんな日本にしたいのかというビジョンが見えてこないのです。その点、アメリカが偉いと思うのは、まず目的があってその目的を達成するためにコンピュータやインターネットが必要であると考える点です。
  • 今のパソコンは、明らかに機能過剰になっています。たしかにコンピュータは何でもできる道具ではあるけれども、だからといって何もかも入れてしまえばいいというものではないでしょう。
  • 何でもできるけれども、使いにくいコンピュータから、用途限定の使いやすいコンピュータへーこの動きは間違いなく、今後加速していくでしょう。
  • 1984年から私が行っているTRONというプロジェクトでは、この超機能分散システムの実現が大きな目標になっています。
  • 最近では欧米でもこのようなコンピュータの応用が注目されるようになっていて、英語でユビキタス・コンピューティングという研究分野になっています。

○第二章「20世紀を変えた情報理論

  • コンピュータを万能情報マシンに進化させたのは、天才クロード・シャノンでした。世界に満ちあふれている情報はすべて0と1のビットで表現できるー彼の大発見から現在の高度情報社会は誕生したのです。
  • 最初は巨大だったコンピュータも、今や手のひらの上、あるいは携帯電話のなかに入るほどに小さくなったのですが、その原理は50年前とほとんど変わっていないのです。
  • アナログのレコードの場合、音の情報は切れ目がなく連続しているわけです。これにたいしてCDやMDの場合、実は音が連続していません。CD録音の場合、まず最初に連続した音の繋がりを44.1KHz、つまり44100分の1秒ごとに分割します。そして次に、その分割された音の情報、もっと正確に言えば、音圧の高さをビットの形でコード化しているのです。

○第三章「戦争がコンピュータを作った」
○第四章「0と1のマジック・ブール代数

  • ブール代数は、わずか数種類の演算方法を組み合わせることで、さまざまな計算が可能になることを示しました。具体的に言えば、AND、OR、NOTがそれにあたります。

○第五章「プログラム」

  • ENIACには大きな問題点がありました。というのは、本来、この機械は弾道計算を目的として作られていたので、それを別の目的に使おうとすると配線そのものをつなぎ替える必要があったのです。ENIACはコンピュータというより弾道計算専用の巨大電卓だったというわけです。
  • こうしたENIACの欠点を克服するために考え出されたのがプログラム内蔵方式でした。
  • プログラム内蔵方式のコンピュータを別名フォン・ノイマン型といいます。
  • アルゴリズムとは、日本語に訳すと解法、すなわち解き方という意味です。プログラムの良し悪しは、ひとえにアルゴリズムにかかっていると言っても過言ではありません。
  • プログラミングがつまらないなんて、とんでもない!アルゴリズムを考えてプログラムを作るのは、小説を書くことと同じくらいクリエイティブで面白いことです。

○第六章「世界を変えた小さな石」

  • 超高速コンピュータはもちろんフォン・ノイマン型ではありません。計算を早く処理するために工夫された独特の回路設計になっています。そのため、メインフレームに力をいれていたIBMには苦手な分野でした。
  • トランジスタとは半導体を利用して作られています。半導体とは、状況によって電気を通さなかったり、通したりする物質のことです。
  • トランジスタの誕生からさらに10年たった1959年、今度はICが考え出されます。日本語では集積回路と訳します。集積回路の名のとおり、電子回路を一つの半導体の上に載せたものがICです。トランジスタのほかに、抵抗やコンデンサ、あるいはダイオードと呼ばれるものが組合わさることで、ラジオやアンプ等の回路が作られているわけですが、実はこうした電子部品はすべて半導体で作ることが可能です。
  • この当時(1981年)のパソコン市場はアップル社が独占していたのですが、IBM-PCは、わずか2年にしてマーケットの3割を獲得するほどの成功を示しました。しかし、このIBM-PCこそが、のちにIBM自身を苦しめることになるのです。鳴り物入りで発表され、評判をよんだIBM-PCでしたが、その中身は実はIBM製ではありませんでした。IBM-PCでは、CPUはインテル社のマイクロ・プロセッサ、OSはマイクロソフト社の製品が採用されました。
  • 事実、IBM-PCが発売されて数年もたたないうちに、インテルマイクロソフト製品を使ったIBM-PC互換機が怒濤のように作られ、本家のIBM-PCよりずっと安い値段で売られ、人気を集めることとなったのです。このため、わずか数年にしてIBMはパソコン市場での支配力を失ってしまいました。

○第七章「マシンと人間の架け橋「OS」」

  • レミントンがタイプライターのキー配列を考えた際、最も重要視したのは、なんとキーを早く打てなくすることでした。当時のタイプライターは、あまりにキーを速く叩くと、バーとバーとがぶつかってしまい、最悪の場合、機械の内部で交差したまま動かなくなってしまうのです。

○第八章「インターネットは信頼の輪」
○第九章「電脳社会の落とし穴」

  • インターネットは本来、参加者を信頼することで成り立っています。もし、この信頼関係が崩れれば、インターネットはたちまち機能しなくなります。

■読後感
漫画などを活用し、分かりやすい説明をこころがけているが内容は非常に深い。
とくにコンピュータの本質的な利用法などについて力をいれて説明している。
これまでのコンピュータの歴史のダイナミズムがよく伝わってくる好著。
最近亡くなったジョブズが若かりし姿で輝かしく登場する。