福島清彦『アメリカのグローバル化戦略』講談社現代新書、2003年7月

アメリカのグローバル化戦略 (講談社現代新書)

アメリカのグローバル化戦略 (講談社現代新書)

■内容【個人的評価:★★★−−】

  • アメリカのグローバル化戦略は、たんなるテロ対策ではなく、大胆不敵な世界改造計画である。
  • 歴史上いくつかの国が自国に有利な世界秩序を樹立しようとグローバル化の戦略を立て、実行した。しかし、そうした国々の中でアメリカほど圧倒的な軍事力を有していた国はない。
  • この書では、「グローバル化」という言葉を、「支配的な力を持つ国が、自国が優位に立つ状態を確立し、永続化させるために行う制度づくり」ととらえている。

○第一章「軍事力が先行する危険な戦略」

  • ブッシュ・ドクトリンともいえる安全保障戦略によると、アメリカはテロ組織を破壊するため、軍事面では以下の三項目を実行に移すこととしている。
    • 1.大量破壊兵器等を入手・使用することを試みるテロ組織、テロリスト個人、テロを支援する国家を攻撃対象とする。
    • 2.脅威が米国国境に到着する前に、脅威を発見し破壊する。米国単独で行動し先制攻撃をかけることを辞さない。
    • 3.諸外国には、テロを支援したりテロリストの根拠地を提供するのをやめさせる
  • 大量破壊兵器とは、化学兵器生物兵器放射能兵器、核兵器およびミサイルをさす。
  • 軍事面では近年二つの技術革命が起きている。
    • 1.長距離から正確に攻撃できる兵器、センサー、命令管理システム:巡航ミサイルなど
    • 2.情報技術の進歩を活用した最新の情報収集、処理、伝達:部隊の効率的運用
  • B2(ステルス爆撃機)、戦闘機ラプター無人偵察機プレデターなどが活用されている。
  • 軍事支出でも、アメリカ一国で、露、中、日、英、仏、独、サウジアラビア、伊、印、韓の合計より多い。兵員136万人(うち25万人は725ある海外基地勤務)は、中国の231万人には及ばないが破壊力では世界一である。
  • ヨーロッパは、旧ソ連の脅威がなくなり、国防費より社会保障に力を入れている。アメリカとは異なるヨーロッパ型資本主義を作ることに思想的な確信を持っている。
  • 先制攻撃と予防戦争は異なる。前者は国際法で認められているが、後者は違法である。ブッシュ戦略は予防戦争をも含むと解釈できる形になっている。
  • なぜ冷戦終了後、かえって米国の軍事力は強くなったのか。それは国際政治上のプレゼンスと軍事支出を減らさせない仕組みができてしまっていることによる。現在では、経済規模の4%を軍事に支出している。それは構造的に公共投資が大きい日本の構造と似ている。
  • アメリカは、他国への攻撃に関しては強いが、自国への攻撃があった場合の防御は意外に脆弱である。

○第二章「中東改造計画」

  • アメリカはテロ攻撃の背景には発展途上国イスラム諸国の貧しさが原因であると考えている。アメリカは、アメリカ型の経済思想と政治思想を大いに宣伝し、イスラム諸国を感化しようとしている。
  • 中東の、自らの方針に沿うプロジェクトに対しては資金を支出している。
  • また、アラブの識字率の低さが経済発展と民主化を阻害し、テロにつながっていると考えている。
  • 市場主義と進歩主義はアメリカ社会を支える重要な思想であるが、これを中東諸国に押し付けようとしている。
  • ブッシュ大統領の戦略文書には以下のように記されている。「歴史の教訓は、明白である。繁栄を増進し、貧困を軽減する最良の方法は、政府が命令と管理をする経済ではなく、市場経済である。市場の刺激をさらに強め、市場の諸制度を強化する政策があらゆる国の経済に適した政策なのである。先進国だろうと、新興経済諸国だろうと、発展途上国だろうと、その事実に変わりはない。」
  • しかし、アメリカの現実をみると、富めるものはさらに富み、貧しいものはさらに貧しくなっている。
  • 20世紀に起きた二つの世界大戦で大きく没落したヨーロッパ人は進歩主義を卒業している。

○第三章「特異で独善的な使命感」

  • 約230年間にわたるアメリカ外交を駆け足でみると、そこには首尾一貫した普遍的使命感が分かる。アメリカ的価値観を世界に広めようとしてきたのがアメリカの外交史である。これは、第一次大戦後やベトナム戦争後一時的に挫折したが、今でも継続し、強まりつつある。

○第四章「自己変革に取り組むイスラム諸国」

○第五章「ブッシュ戦略の行方」

  • 米国経済は過剰消費と対外債務の増大という不均衡を抱えている。これは1980年代から続いており、アメリカ経済はその調整に取り組まざるを得ない。2001年末の対外純債務は2兆3091億ドルでGDPの23%に達している。これは消費者が借金をしまくってモノやサービスや住宅を買ったことが主な原因である。消費者ローン残高は1兆6672億ドル、住宅ローン残高は7590億ドルで、二つを合わせると対外純債務とほぼ等しい。家計の貯蓄率は2.1%、先進国中で最低水準である。やがては、ドルの大幅下落によってアメリカが輸入を減らし、輸出競争力を回復せざるを得なくなるのではないか。
  • 日銀としては円高で輸出企業が困らないように政府の命令でドル債を買っているだけだが、その経済効果はアメリカ政府に対する使途を定めない融資になる。輸出企業を守るために日本政府が使った金がイラク戦争で膨らんだアメリカの財政赤字の穴埋めに使われているのである。
  • 現在テロ支援国家は、キューバ、イラン、リビア北朝鮮、シリア、スーダンである。
  • ブッシュ・ドクトリンに代わるアメリカの中東戦略とはいかにあるべきか。
    • 1.軍事力行使はできるだけ手控える
    • 2.民主政治の導入は段階的、弾力的に
    • 3.経済発展は市場主義ではなく、政府重視で
    • 4.早期のパレスチナ国家樹立を

■読後感
いまだにアメリカだけは、自由主義社会主義の対立の図式を標榜し、自由主義こそが人類に幸福をもたらす制度であるということを言い続けている。また、これによりさらなる市場主義の純化を志向するかのようだが、一方で大きな破綻を迎えつつあるというのが現状である。
住宅ローンが焦げ付き、サブプライムの問題が生じているわけだが、この書で解説されているアメリカにおけるローンの状況を見ると、これがいかに根本的な問題であるかということがわかる。