福澤一吉『議論のレッスン』生活人新書、2002年4月

議論のレッスン (生活人新書)

議論のレッスン (生活人新書)

■内容【個人的評価:★★★★−】

◇本書の目的−「フォーマルな議論」の提案

  • 日本の社会では、場所を問わずわけの分からない議論(それを議論と呼ぶならば) の論理でことが決定されている場合が多いようです。この本はそのような風潮を是認しつつも、時と場合によってはより分かりやすいフォーマルな議論(フォーマルな議論の定義は後でしますが)をするべきである、ということを提案するものです。(3ページ)


◇議論について学ぶことの効用

  • 議論(口頭での議論、および読み書きの議論を含む)について学ぶとどんなよいことがあるのでしょうか。たくさんあると思いますが、そのうちの3点をあげてみます。
    • ひとつ目は、議論のあり方を考え、知ることにより、刺激的な知的興奮を得られることです。
    • 2つ目は、議論を通して”自分を知るチャンス”が得られることです。
    • 3つ目の効用としては、日常的議論からよりフォーマルな議論までの幅広いさまざまな議論のうちから、時と場合、内容と程度に合わせて適切な「議論レベル」を選択できるようになります。(4〜5ページ)


◇議論とは

  • 議論の定義については次章からの「議論のルール」でも再度ふれますが、ここではなんらかの根拠(証拠)に基づいてなんらかの主張(または結論)を導くような言語行動、言いかえるなら、論証プロセスを経て結論にいたるような言動のことを「議論」と呼ぶことにしましょう。(21ページ)


◇日常的な議論とフォーマルな議論の違い

  • この本では「根拠の適切性」「根拠から主張への飛躍の程度の吟味」および「隠された根拠の明示」が要求されないのが「日常の議論」、一方これらの内容の明示が必要であるのが「よりフォーマルな識論」ということにします。これが、日常的な議論と「よりフォーマルな議論」の違いなのです。(25ページ)


◇最低限の議論スキルに必要なもの

  • 本書では、最低限の議論スキルとして、次の2点をクリアすることを条件としたいと思います。
    • 1発言者の主張が明示されている。
    • 2発言者の主張がなぜ主張として成り立つかを示す根拠なり証拠なりを提示している。
  • この2点を守って議論が展開されている場合にはじめて「その人は最低限の議論スキルがある」といえることにしましょう。(27ページ)


◇仮定であっても質問には答えられなければならない

  • 「仮定の質問に答えられない」というとき、「与党の政策は現時点ではまだ用意されていない」という政治的な理由もあるのかもしれません。しかしそういう問題はさておき、仮定の質問に答えられないのは「議論の論理」の基礎である推測や演繹などがうまくできていないからです。(30ページ)


◇議論は勝ち負けではない

  • 議論のルールをサッカーのルールとのアナロジー(類比)で話す場合に誤解しないように気をつけたいのは、議論は白黒が明確につく試合ではないということです。ある議論が有効(ゴールに相当)であることを議論の参加者全員が承認する場合でも、それは必ずしも「議論の勝ち負け」を意味しません。(63ページ)


◇同じ経験的事実から全く別の主張が導かれる場合もある

  • ある人が犯罪を犯したかどうかを判断する場合で、経験的事実(データ)としては当該の本人が「私がやりました」と自白したとしましょう。そして「白白は信憑性がある」という論拠1を用意したとします。この場合は、主張である「彼は犯罪人である」が成り立ちそうです。しかし、一方で、論拠2として「自白は警察から強制されたものであり、信憑性はない」を用いると、今度は経験的事実(データ)自体をまったくいじらなくても「彼は無実である」という、さきほどの主張とは180度異なる結論が導かれてしまいます。注意したいのは、異なるふたつの主張を導いた経験的事実(データ)自体はまったく同じものであるということです。経験的事実(データ)、根拠にあたるものはまったく変化していないのです。(134ページ)


◇日本語における「やっぱり」「やはり」

  • 日本語における「やっぱり」「やはり」は、論拠の存在を隠蔽する役目をもつキーワードである、と私は思っています。ですから、この「やっぱり」について知ることは、論拠について知ることと関連があると思うのです。(145ページ)

■読後感
議論は、大なり小なり毎日行っていることでいるところだが、それが、思いつきのおしゃべりや、いわゆる雰囲気や勢いのようなものに流されることも多く、そして、それが重要な方針の決定につながったりしていることもよくあることではないか。

「フォーマルな議論」は勝ち負けを目的とするものではなく、よりよい結論を求め、その後決定された方針への参画につなげていくことを目標に置いている。しかし、これを行うにはその人のスキルと、守るべきルール、注意事項の遵守(議論の対象を絞る、など)などが必要である。そして、スキルアップのためには、この本や、野矢茂樹さんの論理トレーニングなども参考にしつつ「日々の訓練」を積み重ねていくことが求められる。