野口悠紀雄『金融工学、こんなに面白い』文春新書、2000年9月
- 作者: 野口悠紀雄
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2000/09
- メディア: 新書
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- 一口金融工学というが、数学的なモデルを用いた金融におけるさまざまな判断をどのように行っているのか。
- 伝統的な証券投資の考え方をどれだけふまえ、また逆に新しい地平を開いたのか。
○第一章「金融工学で金持ちになれるか?」
- まず第一に、金融工学は金持ちになる方法を与えるものではない。逆に言うと、「必ず儲かる」といった言葉を反証するのが金融工学であるともいえる。
- 1970年代に、ユージン・ファーマは、効率的市場の問題に取り組んだ。効率的市場が存在するかどうかということは、裏返していうと株価は予測可能かどうかということでもある。
- たとえば、効果的な新薬の開発に成功した企業であれば、収益率とのつり合いで株価は上がるはずである。しかし、じりじりと適正な水準に近づいていくという形であれば、安い水準で買った投資家は将来的にアブノーマルな利得を得ることとなる。こうした市場は非効率的市場である。
- 効率的市場には3つの形がある。
- 1.ウィーク・フォームで非効率的:過去の株価を適切に用いればアブノーマル・リターンを得ることが可能
- 2.セミ・ストロング・フォームで非効率的:過去の株価に加え、公開されている情報すべてを適切に用いればアブノーマル・リターンを得ることが可能
- 3.ストロング・フォームで非効率的:未公開の情報を含めたすべての情報を適切に用いればアブノーマル・リターンを得ることが可能
- ストロング・フォームで効率的とは、未公開の情報を含めすべての情報を利用してもアブノーマル・リターンはえられないということである。
- 現実の株式市場や外国為替市場は、ウィーク・フォームでは効率的、セミ・ストロング・フォームでもほぼ効率的、ストロング・フォームでは内部者情報については非効率的と言える。このため、どんなに高度な理論、情報を使ったとしても市場に打ち勝つことは難しい。
- チャートや罫線は過去の株価を徹底的に分析する。しかし、株価を検証して分かったのは、ランダム・ウォークする、つまり過去の動きとは無関係に株価が動くということである。このことは、市場はウィーク・フォームで効率的であるということになる。
- ランダムな動きをするのになぜ一定の傾向を見たがるのか。それは、でたらめな動きであっても結果として規則性をもったもののように見えることがあるからである。
- 効率的市場仮説をふまえ、割安銘柄などの発掘はやめて市場全体のポートフォリオを構築しようとする立場が現れた。
- 効率的市場仮説については今なお異論も多い。また、全員が効率的市場仮説を信じると市場は効率的ではなくなるという逆説もある。
- では何のために金融工学を学ぶのか。それは、
- 1.無駄な損失を回避できる
- 2.リスク回避ができる
- 3.だまされない ためである。
- 互いに無関係なものを集めるとリスクが低下するというのが分散投資の考え方である。
- 日本では、預金、株式、不動産への三分割ということが言われてきた。また、国際分散投資ということも言われるようになった。
- 企業の活動でも「コア・コンピテンス」ということが言われるが、客観情勢が変化したときには集中させたリスクを負うこともある。
- リスクは、マーケット全体のマーケット・リスクと個別企業のリスクであるユニーク・リスクである。分散投資は、ユニーク・リスクを軽減させることができる。
- この分散投資を理論化したのがマルコヴィッツである。この理論は、博士論文の審査の際にフリードマンから酷評を受け、しばらく日の目を見なかったが、のちにトービンの分離定理が世に出るとともに見直され、金融工学の基本的な考え方となっている。
- ベータ値を利用して資産価値を評価するモデルがウィリアム・シャープとジョン・リントナーにより作られた。CAPMモデルという。
- CAPMモデルは、不動産なども含むすべての資産の組み合わせとして市場ポートフォリオを作らなければならないことから実現性が困難である。また実証面からベータ率と収益率が関連性がないことが証明され、CAPMモデルの有用性は限定されたものとなった。
- しかし、リスク・プレミアムに関連するのは総リスクではなく分散投資によっては取り除くことのできないマーケット・リスクであることなどは、CAPMの理論構築の中で現在でも通用する洞察である。
- オプションは、対象となる原資産を特定の価格で購入する権利を「コール・オプション」といい、逆に売却する権利を「プット・オプション」という。
- 1970年代のはじめに、ブラック、ショールズ、マートンの3人がオプションの価格理論を作り上げた。
- IT技術の進歩とともに、金融工学に関する新しいビジネスモデルが求められている。日本の金融機関はこうした考え方の導入に大きく立ち遅れてしまった。
逐次の情報だけで株式の売買が決定されるのか。そうではなく、むしろその企業の持っているファンダメンタルな水準というものがあるだろう。
株価収益率は常に適正水準からかい離している。これは、合理的な理由以外の部分が大きいこと、いっときのブームなど思惑の要素なども大きいことを意味しているのではないか。
効率的市場仮説は、短期かつ合理的な選択が行われる市場を想定している(と思われる)。このため、長期で、さまざまな投資家のいる市場ではあまり説得的ともいいがたいのではないか。
新古典派の枠組をそのまま適用している印象。理論だけが前面に出ており、実際のデータをもって実証する手続きが軽視されているのではないか。