NHK取材班『グーグル革命の衝撃』NHK出版、2007年5月

NHKスペシャル グーグル革命の衝撃

NHKスペシャル グーグル革命の衝撃

■内容【個人的評価:★★★−−】
○1「天才集団の牙城」

  • グーグルはカリフォルニア州サンノゼから高速で15分程度のマウンテンビューにある。
  • 仕事は6カ月おきに配置転換があるということで飽きの来ず、創造的な活力を生むローテーションになっているようだ。一方、社員の多くは、世界中の有名大学の博士号を取得したエリートたちである。
  • プログラマーはその仕事にのみ没頭できるようになっている。逆にいうと、仕事さえきちんとやっていればそのスタイルは問われない。
  • 開発では、アイデアを持っている人に発言権があり、それに対し自由に批評を加える。グーグルは、世界中にこうした社員を一万二千人以上抱え、売上高は100億ドルを超えている。株式の時価総額も18兆円に達した。何百人もの社員がストックオプションにより億万長者となっている。なぜわずか9年でここまで巨大になったのか。
  • 人々は検索サービスへの依存を強めつつある。検索は当たり前のインフラとなっているが、その背後では数十万件の答えが並べられているのだ。
  • 中国・韓国・日本を除き、グーグルは検索のトップシェアを握っている。
  • グーグルの売上の大半は広告収入である。
  • 創業者ラリー・ページはスタンフォード大学でバックリンクの研究を行った。自分から「張ったリンク」ではなく自分に「張られているリンク」の研究である。これを知るためには、世界中のページをくまなく調べることでようやく分かることとなる。これがたまたま検索の考え方と通じたため、検索の道を志向していくこととなった。
  • 世界中のホームページをダウンロードするというのは、当時のコンピュータの性能と細いネット回線では実現のしようがなかった。ラリー・ページとサーゲイ・ブリンは、使われていないコンピュータを大量にかき集め、また大学のネット回線をたびたびパンクさせながらも二千四百万のページをすべてダウンロードして解析した。(最新の研究では、ネット上のホームページは百五十億以上と見られている)
  • これはそのまま検索の仕組みとなったとともに、バックリンクの数でそのページを評価するという仕組みもできた。(今は、ページに含まれる単語の数や表題のつけ方など百以上のパラメータで判断を行っている)
  • 検索では、すべての情報を自動プログラム(「クローラー」という)がくまなく徘徊し、グーグルの中央サーバへと情報を自動的に持ち帰る。クローラーが持ち帰った情報は一語一語の単語に分解され、単語とURLとの対応付けを表にして保存する。これをインデックスといい、これとドキュメントのセットで検索結果を表示する。きわめて莫大なデータ量であるが、グーグルは原則0.5秒以下でこれをこなす。
  • グーグルのコンピュータは、パソコン程度のもののつなぎ合わせである。これが、高度に設計された汎用機以上のパフォーマンスを発揮している。
  • サーバーは、1999年には300台、翌年4000台、2003年には十万台にまで伸びた。
  • グーグルは常識を覆す収益をあげた。収益の源泉が中小企業だったのである。通常商売は、売れ筋商品から利益を得るが、グーグルは運営コストが低いため、売れ筋以外の商品でも利益を出せるようになった。これをロングテールビジネスといっている。

○2「広告革命」

  • 花の種を売る小さな会社が、これまではカタログ作成にたくさんの費用を使っていたが、グーグルへの広告掲載により費用は安く、売上は三倍となった。また、どのくらいの人が関心を寄せてくれるのか情報をグーグルから取得できるようになった。また、どのような言葉を使うと関心を寄せてもらえるのかも情報提供してもらえる。
  • インドでは、グーグル・アドセンスの仕組みを利用して月々1000ドル以上の広告収入を得ている人もいる。
  • グーグル・アドセンスにより、グーグルは世界中のホームページを「広告スペース」へと変え、ホームページにより生計を立てるライフスタイルを確立した。
  • 検索エンジンで上位にランクされることが重要であり、そうしたホームページをつくる技法を売る会社もある。(ブルース・クレイ社)

○3「既存のメディアを揺さぶるグーグル」

  • 現代社会は、膨大な情報が爆発的に増加を続けている。しかし、人々の考え方は、これとは逆に画一化され一方向に流れる傾向にある。(「象徴的貧困」ベルナール・スティグレール)グーグルはこの貧困を加速させるのか、それとも少数意見を取り込み言論の厚みを増すのか。
  • グーグル・ニュースは、コンピュータが自動でニュース編集を行う。世界中の報道機関が作成したニュースをウェブ上に並べているだけである。

○4「誰が検索順位を決めるのか」

  • 検索のランクは、ページランクという数式により決められる。いろいろと不満が寄せられることもあるが、それに対してはウェブの意見の総意であると説明してきた。
  • ウェブの作り方が、明らかに検索上位になるための違法な作り方になっていたりするとグーグルの検索結果から外されることもある。その検索結果は議会でも問題となるほどである。たとえば「天安門」で検索すると中国でアメリカで違う結果が出るなど、当局の意向を受けた検索結果の操作を行っているのではないかなどということである。

○5「グーグルにすべてを委ねるのか」

  • グーグルのデータセンターはオレゴン州ダラスに設置されている。
  • ここには、それぞれの個人が何を検索したのかなどのデータがすべて納められている。
  • これは意識されない監視社会ではないのかという指摘もある。

○6「膨張する巨大IT企業の行方」

  • グーグルが先進国で唯一攻略できていない市場、それが日本である。2006年3月時点で35%であり、首位のヤフーは65%である。グーグルは、日本で普及が進んでいる携帯電話に目を付け、携帯による検索サービスの提供により一気に拡大を狙っている。
  • グーグルの成長により、揺さぶられているのが著作権がらみの法領域である。アメリカでは著作権について「フェア・ユース」という原則が示され、裁判の場でこれが公正利用に当たるかどうか判断される。一方、日本では著作権法にこうした原則らしいものがなく、個別列挙事項にあたるかどうかで判断されることとなる。
  • 人々のネット依存が進んだ場合、表現の自由や民主主義がうまく機能するのかどうか。キャス・サンスティーン教授は、インターネット社会で表現の自由のシステムを機能させるには、政府の検閲を制限するという従来の方法ばかりでなく、検索結果に過度に依存せず、選ばなかったものにも接触することが大切であるとしている。自分の立場とは異なる言論に触れる機会が重要であるとしている。
  • 東京大学小宮山宏総長は、常識を疑う確かな力を養って欲しいと入学式の式辞で言った。常識を疑うためには、頭の中で多様な知が関連づけられていることが前提となる。知を構造化することと、大量の情報をもつことは全く異なるのだとした。
  • 知識が爆発的に増えた現代、人類はかえって知を有効に使えないジレンマに陥っているのではないか。

○7「人類のライフスタイルとグーグル」

  • 身の回りのすべてをグーグルによる検索で、たとえば料理の方法を探したり、家具を購入したり、収入を得たり、ついには自分の記憶までグーグルに預ける人まで現れてきている。

○エピローグ「「退化」する私たちの未来」

  • 論文をコピぺで作ってしまう若者がいる。しかし、それが本当にまっとうな姿といえるのか。苦しんで自分で調べ、思考し、自らのオリジナルな発想にたどり着くという人生最大の楽しみを忘れてしまうのではないか。
  • 自分で判断するのでなく、検索結果=判断となってしまっている。

■読後感
思考の構造化はやはり必要なものである。とりわけ、学生よりも、常に問題とその対応を迫られている社会人にとって切実なものである。その場その場の判断は、誰かがやっているから、というより、基本的な考え方、理屈に沿っているからということで下していくものであるし、これは社会状況をふまえ、常に軌道修正していくべきものでもある。
思考が構造化されればグーグルもさらにツールとして力を持つ。今は順序が逆転してしまっているということではないか。