E.キューブラー・ロス『「死ぬ瞬間」と死後の生』中公文庫、2001年6月

「死ぬ瞬間」と死後の生 (中公文庫)

「死ぬ瞬間」と死後の生 (中公文庫)

■内容【個人的評価:★★★★−】
○「死ほど大事なことはない」

  • 人生の終わりに近づいて、過去を振り返ったとき、人はいまの自分を作り上げたのはつらかった日々なのだということに気が付くだろう。
  • この世に唯一残っている正直な人々は精神病患者と幼児、そして末期患者です。
  • 「もうすぐ死んでしまうんだ」と言う死が迫っている人に対して、「快方に向かっていますよ」というのは欺瞞である。そんなときは手を握り、何かできることはありませんか、と聞いてあげてほしい。
  • 患者は、あなたが訪れたとき、自分の問題は自分の胸にしまい、天気の話などあたりさわりのないことを話すだろう。あなたの不安を増やしたくないからである。
  • 残された子どもについてであるが、両親が死を恐れていない場合や、ペットや祖母が死んだときに気持ちを分かち合えたとき、また親が死の床にあるときにきちんと世話ができた場合は心配がない。
  • おとなが子どもに言いたいのは、「あなたのママは、痛みもない、苦しみもない、いい場所に行くのよ」ということです。しかしいざ子どもの母親が死んだときには取り乱し、泣き叫ぶ、子どもはおとなを信用しなくなります。
  • 棺桶のうえに山のように花を積むより、生きているうちに花を持っていってあげた方がいいし、その人が音楽好きなら、そんなときこそ音楽を聴かせてあげた方がいい。
  • いちばん大切なことはじっくり時間をかけるということです。人が言わんとしていることに耳を傾けられること、ちゃんとそれが聞き取れること、それこそがいちばん大切なことです。
  • 私はドアのところに立って、これが最後だと思いながら彼女を見つめ、声には出さずにさようならと言いました。するとリズは目を開け、はっきりと私をみて、またもや大きな、本当に幸せそうな微笑を顔いっぱいに浮かべて、ふくれあがった自分のおなかを見下ろしました。まるで、あなたのメッセージをちゃんと受け取りましたよ、と言っているようでした。
  • 治らない病気にかかっている子どもは老賢者のように聡明です。思春期になる前に苦しい経験をしたり肉体が衰えてしまった子どもは、みんな聡明です。
  • きっと薬や手術で治るだろうという希望を抱く、しかし、よくなったり悪くなったりの繰り返しである。しかしこんな経験も、ほかでは学べないことを教えてくれる。天罰だとか何か否定的なものとして考えがちだが、身に起こることで否定的なことは何一つない。

○「繭と蝶」

  • 問題なのは、本当に直観的なのはごく一部の人間だけで、私たちの多くは自分自身の声に耳を傾けず、人の言うことばかり聞いているということです。
  • 末期患者に対しては、何よりも先に肉体の安楽、痛みの除去をしてあげることが大切である。こうしたことを受けてはじめて感情的な支えをしてあげられます。
  • 興味深いことに、人々はゆっくり死が近づいてきた場合だけでなく、事故にあったとか、殺されかかったとか、自殺を企てたとかいう場合にも臨死体験をしている。あなたは蝶のようなもので、鏡に映っているのは繭である。繭が修復不可能な損傷を受けるとあなたは死に、繭は蝶を解き放つ。人から殺されようと、自殺であろうと、突然死であろうと繭が破壊されるときの主観的な体験は同じである。死ぬ瞬間あなたはずっと美しくなる。死後のあなたの身体は物理的エネルギーでなく心的エネルギーでできている。
  • 死後の私たちはずっと物理的な全体感覚を持ち続け、自分を1〜2メートル先から見ている。これはキリスト教のいう「復活」ではなく、心的エネルギーからつくられたまったく一時的な、仮の身体です。
  • 門や橋やトンネルを通過し、光が見えてくる。無条件の愛に包まれ、死は恐ろしくなくなる。光を見たときに、全知を得る。そして重要なものは学位でも財産でもなく愛だということを理解する。

○「生、死、死後の生」

  • 人類は地球上に生まれて何百万年にもなるというのに、おそらくほかの何よりも重要な問題がわかっていない。それは生と死の定義、意味、目的である。
  • 大昔の人間は死をもっと身近な問題としてとらえ、天国や死後の世界を信じていました。しかしここ百年ほどで肉体が死んだ後にも生があるという人はどんどん減ってきた。
  • 心臓が止まってから蘇生した数多くの人たちのうち、生命機能の一時停止の間に体験したことを後で思い出せる人は十人に一人しかいない。それは夢を、あとで思い出せないことと似ている。
  • 死ぬ時はひとりではない。自分を助け、導いてくれる人が手を貸してくれる。また、先に死んだ人が出迎えてくれる。

○「現代における癒し」

  • 肉体、感情、知性、霊という四つの部分のバランスが取れていれば、人間は常に完全な存在です。

■読後感
昨日、NHKの『クローズアップ現代』で取り上げられた、小児がんを患い、社会復帰しようとしているこどもたちの言葉がじつに率直で落ち着いた、大人びていたことが思い出された。死に直面した子どもは何か違うものを学んでいるのだろう。
「愛する」ということば、これも一つの文化なのではないか。宗教を背景にした借り物として。