林望(1999)『東京珍景録』新潮文庫
- 作者: 林望
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1999/05
- メディア: 文庫
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◇「日常」の世界に珍景はひっそりと隠れている
- 私が問題にしたいのは、おおかたの日本人の傾向を裏切って、むろんこの「日常」のほうであって、「非日常」のほうではない。そうして、都市が田舎と違う面白さをもっているのは、ひとえにまた、このうずたかい日常のなかにうずもれた「なにか」の面白さだと私は考えているのである。それを私は仮に「珍景」という語で呼ぶ。(16ページ)
◇過去の風景がなぜ失われてきたのか
- 素寒貧の明治政府は、どうやって人民から金を絞り取るかということを主眼として、よろずの税制などをこころがけた。ここに、相続に際して、莫大な税金を収奪するという妙法が思い付かれたのである。(中略)かくて、地主や富豪は、ただ地主や富豪だというだけの理由で、家屋敷を巻き上げられ、その分は、別段人民に平等に分配されたわけではなくて、結局、企業と政府の山分けするところとなった。そこで、成城にしろ、田園調布にしろ、その開闢はそもそも中流的資産に過ぎなかったものが、次第にステイタスを上げ、資産価値が上昇してくると、やがて、これまた「親子代々持っていてはいけない土地」の数に入り、相続が生ずる度に美しい屋敷地は破却され、分断され、そこへ安手の小規模住宅が取って代わるという仕儀となって、次第にその価値を下げていくという筋道をたどりつつあるのである。(129〜130ページ)
「あった、あった、こういう建築物!」という叫びの繰り返しだった。いっぽうで、こんなところにこんな建築物があるんだ、という純粋な発見もあった。
この本で多く取り上げられている昭和初期のアールデコ調の建築物については、自分にとってもどこか記憶の隅にあり続けているものである。また、昔は、洋館という独特の雰囲気を持った建築物があった。東京という街は、ごちゃごちゃしていながらそうした歴史的な何かが生き続けているところが面白いところなのだが、著者も言うとおり新陳代謝がきわめて速く、消え去っていく運命にある。